2008年12月3日水曜日

作品紹介:掌編

「家族」

ベランダからながめる月は大きかった。

中年は少し出た腹をなでながら、涙を隠して泣いていた。

どうやら、酒に溶けたさびしさが胃にしみるらしかった。

 − 単身赴任 −

娘と電話でケンカした。

うるさがられた。

妻に愚痴るにはプライドが邪魔なのか、中年は月に愚痴っていた。

呼び止められた人のするように、中年はふと振り返った。

窓越しに、テーブルの上で携帯が光っている。

娘からの着信なのだろう。

中年は微笑んだ。

部屋に戻る中年を照らす月が差し入れた光は、こころなしか暖かかった。

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